保育士の中にはなかなか給料が上がらずに悩んでいる人は多く、それ故に保育士としてのキャリアを諦めて転職してしまう人もいるほどです。そんな中で、着実にキャリアを積み上げ、給料を上げるにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは保育士の給与に関する現状や、給与を上げるためにできること、保育士の将来性について解説します。
保育士の給料が上がっている?5年前との比較
保育士は待遇の悪さが前から問題視されています。そのため、少しでも待遇が良くなるように様々な施策が行われてきましたが、5年前の2015年と比べて状況は改善されているのでしょうか。2015年と2020年の保育士の給与などの待遇を比較しました。
保育士の5年前の給与水準
保育士の2015年の平均年収は222.3万円でした。ちなみに2015年の日本全体の平均年収は422万円。これを考えると、保育士の平均年収は一般より低いことが伺えます。ただし、2016年は326.7万円、2017年は342.1万円、2018年は357.9万円、2019年は363.4万円と少しずつではあるものの、保育士の平均年収が年々上昇しています。2020年はまだデータが発表されていませんが、この調子だとさらに上がることが予測されるでしょう。
処遇改善加算1
保育士の役職と言われると、それまでは主任や園長程度しか存在していませんでした。それ故に若手はもちろん、ベテランの保育士でも、保育園の役職の枠が埋まってしまっていて、キャリアアップが見込めずに転職してしまうことが問題視されていました。そこで2013年に登場した制度が「処遇改善加算」です。給与改善加算には1と2の2種類が存在しており、2については次の段落にて解説します。まず処遇改善加算1は、基礎分・賃金改善要件分・キャリアパス要件分の3つの要件で構成されています。
まず基礎分は勤務年数に応じて給与が上がるシステムで、2%〜12%の給与加算が義務付けられています。次に賃金改善要件分は賃金改善計画やその実績を報告している施設に加算されるもので、勤務年数が10年以下の保育士は6%、11年以上の保育士は5%加算されます。そして、キャリアパス要件分は、職員にわかるキャリアパスを設定し、研修などキャリアアップのための機会を設けてそれを職員に周知している必要があります。これを満たしていないと、賃金改善要件分から2%分引き下げられることとなります。
処遇改善加算2
処遇改善加算1が経験年数に応じたものなのに対し、処遇改善加算2は各都道府県が定める研修を受講し、要件を満たすことで役職に就け、それに伴って給与も加算されるシステムとなっています。この制度ができたことで新たにできた役職は副主任保育士、専門リーダー、職業分野別リーダーなど。保育士の経験年数と役職や受講した研修の種類・数に応じて5,000円から4万円の給与加算が受けられます。
社宅借上制度
社宅借上制度は、保育士のためにマンションなどの一部もしくは全部を借り上げた保育園に対して、1戸につき一定の金額を支給する制度です。この支援額は自治体によって異なり、東京都だと82,000円となっています。家賃が生活費を圧迫している状態の保育士は多数います。それに加えて、家賃負担が大きいから実家から出られないという人もいるほどです。そこで借上社宅なら相場よりも安い家賃で、しかも敷金・礼金がかからず引っ越し費用も安く抑えたうえで、保育士が職場の近くに住むことができます。
私立保育園と公立保育園の比較
公立と私立の保育士の初任給はどちらも16万円〜17万円程度でそれほど差は大きくありません。しかし、公立は必ず定期的な給料の引き上げが行われるのに対し、私立はそれが保育園側に委ねられている部分が大きいです。そのため、私立は公立より稼げる保育園もあれば稼げない保育園もあり、一概には言えません。
公立の保育園で働く保育士は、非常勤を除けばみんな地方公務員という扱いになります。給与システムは毎年一定のペースで給与が上がり、一定の勤務年数に到達すれば、役職がつかない限り給与が上がりません。ただし、主任などの役職になれば、大幅な給与アップが期待できます。それに対して私立の保育園で勤務する保育士は勤務年数に関係なく、実力で評価されます。そのため、公立よりも不利な部分もありますが、役職がなくても資格を多く取得しているなど実力が評価されることで、大幅な給与アップが期待できます。ちなみに私立だと保育士資格を所持していなくても結果を出しさえすれば、保育士資格を有している人以上の給与を受け取れることもあります。また、教育に力を入れている園などでは、園長クラスになると年収が1,000万円を越えることも。
保育士の給料を引き上げ方法9選
それでは、保育士が自分の給料を上げるにはどんなことをすれば良いのでしょうか。実行に移すことで給与アップが期待できる方法を9つ紹介します。
給料の高いところに転職
やはりシンプルな方法は、今よりも給与が高いところへ転職する方法です。具体的な方法としては、都市部の保育園に転職する、人気の園に転職するなどといった選択肢があるでしょう。ただし、都市部だと引っ越しが必要な場合もあります。そこで、今住んでいる場所から通える範囲なら問題ありませんが、引っ越しが必要となると、引っ越し費用に加え、今よりも家賃が高くなり、結局生活は変わらないという可能性も考えられるので、よく考えたうえで実行に移しましょう。
また、待遇の良い保育園は、資格の取得など今まで以上の頑張りが求められる可能性が高いです。そもそも給与待遇が良い保育園は保育士からの人気が高く、そもそも必ず転職できるとは限りません。したがって、保育園からどんなスキルが求められるのか、よく分析したうえで応募しましょう。
残業代が出るところ・残業や持ち帰りのない保育園に転職する
保育園の中にはサービス残業を要求されるのに、残業代が支払われなかったり、見込み残業システムを採用していたりするところも多く存在します。その場合は、しっかり残業代が支払われたり、給与はそのままでも残業が少なかったりする保育園を選ぶのが良いでしょう。時間よりもお金が欲しいと考えているなら、残業代が支払われる保育園へ転職するのがおすすめです。そうすることで、拘束時間が長くなるリスクはありますが、その分貯蓄に回せるお金も増えるでしょう。
ただし、保育士の中には、残業よりも自分の時間が最もほしいと考えている人も多くいます。その場合は残業なしかつ、給与が今とそれほど変わらない職場を探すと良いでしょう。しかし、残業に関してはインターネットの公式サイトや求人サイトに書かれている情報と、実情が全然違うケースも多いです。したがって、転職を希望する保育園で働いている人や、その周りの人などからの情報収集を入念に行ったうえで転職を実行しましょう。
関連する資格を取得する(リトミック指導者、絵本専門士、チャイルドマインダー等)
保育園が多様化し、他の保育園との差別化を図るために専門的な知識を有する保育士を欲している保育園は増えています。したがって、何かの専門家であることをアピールできる民間資格を取得しておくのもおすすめです。ここで例として上げるのが、リトミック指導者・絵本専門士・チャイルドマインダー・病児保育スペシャリストの4つ。リトミック指導者はその名の通り、リトミックに関する資格で、複数の団体が資格を運営しています。教育に力を入れている保育園だけでなく、一般的な保育園でもリトミックを取り入れているところは多いです。音楽似合わせて「お片付けをしよう」「整列しよう」などの指示を出すことから、子供たちの感性を育てつつ、保護者のフォローにもなり、保護者からの評価にも繋がります。
次に絵本専門士は今保育士の中で注目度が上がっている資格であり、絵本に関する専門的な知識を持ち、読み聞かせを通して子供たちの感性や創造性を育てる人の育成を目標としています。この資格を取得するには、子供たちの年齢・発達に合わせた絵本を選ぶ能力や、子供たちが絵本の世界を想像できるような表現力など幅広い能力が求められるうえ、保育士として3年以上の経験も必要です。また、講座が開催されているのは東京の「国立オリンピック記念青少年総合センター」のみで、地方在住者には少し厳しい条件。しかも講座の定員が60名と狭き門であり、この資格を取得している保育士は重宝されるでしょう。
チャイルドマインダーは元々イギリスで誕生した資格で、保育園ではなく、家庭を訪れて働くベビーシッター向けのものです。ただし、少子高齢化によって、アットホームな環境での少人数保育を売りとした保育園も増えていたり、副業としてベビーシッターとして働いたりするうえで役立つことが期待できます。そして病児保育スペシャリストはその名の通り、病児保育に関する専門的な知識を持った人材であることを証明する資格です。共働き家庭が年々増えており、それに伴って、病児保育の需要も高くなっています。そこで病児保育スペシャリスト資格を取得することで、保護者や保育園からの信頼を得られ、給与アップに繋がる可能性も考えられるでしょう。
これ以外にも幼児保育に関連する資格はたくさん存在するので、自分の得意なことや、今働いている保育園の状況に応じて必要な資格に挑戦してみてください。
役職につく
公立でも私立でも、役職に就けば大幅な給与アップが期待できます。ただし、保育園だと、すでにポストが埋まっていて、しかも役職者の年齢が定年まで程遠いことから、ポストを諦めてしまう人も少なくありません。その場合は転職を視野に入れてみるのが良いでしょう。スキルのある人材を役職ポストに引き上げ、園全体の質を上げようとしている保育園は多く存在します。役職ポストの求人は役職経験者向けのものが多いですが、未経験者でもそれ相応の経験があればOKとする求人も探せばあるので、よく求人情報をチェックし、転職してみるのも良いでしょう。
公務員保育士になる
先程解説したように公立保育園で働く正規雇用の看護師は地方公務員という扱いになります。公務員保育士の強みは、雇用の安定性とボーナスでしょう。公務員だと、景気が急上昇したときに、一般企業のように大幅な給与アップは見込めませんが、その代わり、毎年着実に一定額給与が上がるうえ、不景気の際の大幅な給与の引き下げもありません。地方公務員は特にボーナスが良いことで知られており、30歳前後でボーナスが100万円に到達することも多いです。
ただし、公務員保育士になるためには、各自治体が実施している公務員試験を受験し、合格しなければいけません。公務員ということで、基本的にどこも倍率が高く、狭き門をクリアしないと公務員保育士を目指せないことを理解し、準備を進めましょう。公務員試験で課されるテストは自治体によって異なりますが、基本的には体力テストと高卒レベル程度の学力検査、そして保育に関するテスト、論文があります。公務員試験を受験するにあたっては年齢制限もあり、これも自治体によりますが、だいたい20代半ばから30歳がタイムリミット。したがって、公務員保育士を目指すなら少しでも早く準備を始めましょう。
処遇改善加算2の対象になる
先程紹介した処遇改善加算2の対象になれば、月額5,000円から月額4万円の給与アップを狙えます。まず5,000円以上アップの対象になるためには、職務分野別リーダー等の発令/職務命令・経験年数が概ね3年以上・担当分野の研修を修了していることの3つです。また、4万円の条件は副主任保育士等の職位の発令・職務命令・経験年数が概ね7年以上・4分野以上の研修を修了していることとなっています。この加算におけるキャリアアップ研修には、病児保育やマネジメントなど様々な種類があり、自分が希望するキャリアに応じた講習を選択しましょう。
社宅借上制度を活用する
社宅借上制度を利用して、出費を少しでも安く抑えるというのも一つの手です。借上社宅だと家賃は1.2万円が相場と言われています。それに対して、東京都で一人暮らしをする場合の家賃相場は、6万円〜8万円。同じ月収20万円でも、社宅に住むのと、自分で家を借りるのとでは、5万円以上の差が生じます。それに、手取り21万円で家賃1万円程度の社宅に住むのと、手取り26万円で家賃6万円の家に住むのとでは、残るお金が20万円という点は同じですが、年収で考えると5万円×12ヶ月=60万円の差が開きます。その分所得税が課されるので、税金の面を考えても社宅はお得です。
しかし、社宅は勤務年数が5年〜10年までと制限が設けられていることが多々あります。それに、同じマンションに同じ職場の人が住んでいることにストレスを感じる人もいるので、この点を考えたうえで入居しましょう。
副業する
中には副業NGの保育園もありますが、副業OKの場合は、ベビーシッターなど保育士資格を活かした副業に挑戦してみるのも良いでしょう。クラウドソーシングや、フリーランスベビーシッターを募集しているサイトなどに登録すれば、仕事が見つかる可能性があります。また、空き時間を有効活用したいなら、記事作成など、インターネットを使った副業も良いでしょう。幼児教育や保育に関連する記事は需要があるので、自分の知識をお金に変えられます。ただし、副業は本来休む時間を仕事に費やすこととなるため、自分で副業をやらない日を決め、しっかり休息を取る必要があります。
個人事業主として独立する(ベビーシッター、家庭的保育事業)
実力に見合った職場がいつになっても見つからないなどといった場合は、独立してしまうのも一つの手です。この場合はベビーシッターとして、子供がいる家庭に出向いて働いたり、家庭的保育事業といって、自分の家に子供を招いたりする選択肢があります。個人事業主として働く場合のメリットは、自分の実力・頑張りが直接受け取れるお金に反映される点でしょう。ただし、人によっては保育園で働いていたときよりも収入が少ない、福利厚生がないなどのデメリットもあります。
また、ユーザー目線で考えると、実績のない保育士に子供を預けるのは不安でしょう。そのため、いきなりフリーランスとして独立するのではなく、副業でベビーシッターとして働くなどして実績を積んでから独立するのがおすすめです。
保育士の将来性
保育士は徐々に待遇が良くなりつつはありますが、今後保育士の需要や将来性はどのように変わっていくのでしょうか。保育士の将来性について考えてみましょう。
後3年がピーク
今は保育園が増加しているため保育士の需要はありますが、いづれは待機児童がいなくなり保育園が増えなくなります。23区でも保育園が増加していないエリアもあるので、あと3年がピークとされています。年々給与が上がってはいるものの、そろそろ頭打ちとなってきているので、自分でスキルを身につけるなどして、これから保育士として生き残るための策を考える必要があります。共働き家庭の増加に伴い、世帯年収が増えることから、より子供の教育に力を入れる家庭は増えるでしょう。それに伴い、音楽や体育などの専門的な分野に力を入れる英才教育系の保育園の需要も高くなる可能性があるので、この分野でのスキルを磨くのも一つの手です。
少子化により保育園が定員割れする
少子化が進み、特に地方は保育園の需要が下がってきて、定員割れを起こしている保育園も増えています。それに伴い、地方は保育士の就職すら難しくなる可能性も考えられるでしょう。ただし、東京をはじめとする都市部の一極集中化も同時に進行しており、しかも共働き家庭も増加していることから、都市部は少子高齢化に関係なく、保育園特に認可保育園の需要が高い状態が続くと見込まれます。
失敗しない保育士キャリアのまとめ
保育士の年収は全体と比べると低めですが、徐々に待遇が改善されつつあります。しかし、これにも限界があるので、自分でいかに少しでも待遇の良い職場へ転職できるか、年収を上げられるかキャリアプランを考え、それに会った資格の取得や研修の受講をして、自分の保育士としての勝ちを上げる必要があるでしょう。少子化に伴って保育士の需要がいずれ下がるという声もありますが、必ずしもそうとは限りません。支援が充実している地域などは、子育て世帯が集まりやすく、それに伴って相変わらず待機児童が出る状態である可能性もあります。教育熱心なところなど、独自の強みを持っている保育園も多いです。
自分のキャリアを着実に積み上げられるかつ、保護者からの需要がある保育園を見極め、稼げる保育士を目指しましょう。
保育士はやり方次第で年収アップも期待できる!
保育士はただ働いているだけでは、どうしても年収が上がりにくいです。少しでも給料を上げたいなら、公務員試験を受けて公立保育園の保育士になる、資格を取得するなど、キャリアアップのためにアクションを起こす必要があるでしょう。自分が今いる環境はキャリアアップできるかどうか、今いる職場でキャリアアップをするには何が必要かなどを考えて実行に移し、年収アップを実現してください。