保育士のイメージとしてよく挙げられるのが「給料が安い」というものです。現在の職場での仕事は好きだけれど、給与に満足できないと悩んでいる保育士さんもいるかもしれません。果たして本当に保育士の給料は安いのでしょうか。今回は、さまざまな給与データと保育士の給与を比較しながら、保育士の給料の背景など、より詳しい実態を紹介します。
保育士は実際にどのくらいもらっている?本当に安い?
保育士の給料は本当にそこまで安いのでしょうか。まずは保育士が実際にどのくらいの給料をもらっているのかを見ていきましょう。
保育士の手取り給料の公開データ
はじめに保育士全体の平均的な給料を見てみましょう。厚生労働省発表の2019年度「賃金構造基本統計調査」によると、フルタイム常勤の保育士の月収は全国平均で約25万円です。ここから手取り額を考えると、おおよそ20万円ほどになります。内閣府が発表した「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>」に基づき、保育園の種類などでも見ていきます。役職のない一般保育士は、保育所の場合、公・私立ともに平均月収は約30万円です。手取りで換算すると24万円ほどです。認定こども園の場合は、私立が月収約28万円、公立が月収約29万円で、手取りは22~24万円ほどになります。小規模保育事業所の場合、A・B型ともに月収は約27万円、手取りで約22万円です。
公立の保育園の公務員保育士の給料表
公立の保育園に勤務する保育士は公務員です。公務員の給料は各自治体において条例で定める給料表に基づき支給されます。それでは公務員保育士の給料表はどのようになっているのか、大阪市の例を挙げて見ていきましょう。給料表は「職務の級」と「号給」の2つの軸によって構成されています。職務の級とは、それぞれの役職を表すものです。例えば、大阪市では、1級は一般保育士、2級は係員(特に高度なもの)、3級は主任・主任保育士、4級は係長・施設長と割り振っています。号給・職務の級ともに、数字が小さいほど給料は低く、数字が大きいほど給料もアップします。号給で考えると、最も給料が低いのは1号給、次に2号給ということです。勤務年数が増えると、定期的に号給や職務の級が上がり、給与も徐々に増えていきます。ここまでが給料表の仕組みです。
一般保育士の給料にあたる1級の表を見てみると、1号給の給料月額は141,200円です。手取り額で考えるとおおよそ11万円ほどでしょう。公務員はこれまでの職務経歴などにもよって、採用時のスタートの号給が異なるので新規採用時の給料が1号給であるとは限りませんが、最も小さな号給でこの金額だということです。大阪市の1級保育士の号給は125まであります。125号給の時点で、給料月額は280,900円、手取りで約22~24万円ほどです。つまり、大阪市の公立保育園に勤務する一般保育士の給料は、月収にして14~28万円、手取り換算で11~24万円ほどということになります。
日本の平均と比較して安い?
それでは、保育士の給料は日本の平均的な給料と比較して安いのでしょうか。2019年度「賃金構造基本統計調査」の発表では、保育士の平均的な年収は約363万円となっています。国税庁が2019年に行った「民間給与実態調査」によれば、日本の平均年収は約436万円です。比較してみると、国内の平均的な年収より、保育士の年収は70万円以上も低いということがわかります。
保育士の給料より安い職業は?
保育士の平均的な給料が、日本の平均的な年収に比べかなり安いということはわかりました。それでは、多々ある職業の中で保育士の給料が最も安いのかと言えばそういうわけではありません。保育士より給料が安い職業もあります。例えば、挙げられるのは介護士です。介護士も保育士と同じく給料の安い職業というイメージがあるかもしれません。勤務する施設の形態や、資格の有無などによっても変わりますが、平均的な年収は300~340万円ほどで保育士よりもやや低めです。他には、図書館司書も挙げられます。図書館司書は、図書館において館内及び蔵書の管理、来館者対応などを行う職業です。公立と私立があり、公立図書館勤務の司書は公務員になります。図書館司書の平均年収は300万円前後と、保育士に比べて低めです。
歯科助手も保育士と比較すると、給料が安い職業です。歯科助手は、歯科医院で歯科医や歯科衛生士の補助を行うことが主な業務で、平均年収は300万円ほどになります。また、登録販売者も給料はそれほど高くありません。登録販売者は、一般用の医薬品を販売できる資格のことで、ドラッグストア内の医薬品スペースなどで医薬品の説明・販売など接客を行います。平均年収は大体300~330万円ほどです。
保育士の給与はなぜ安い?安いわけ
日本の平均的な年収や他の職業の年収などと保育士の給料を比較してきましたが、保育士の給料が安いということは事実であるようです。それでは、そもそも保育士の給料はなぜ安いのでしょうか。ここでは、保育士の給料が安い理由を解説していきます。
保育士は誰でもできる?
給料が安い職業のイメージとして「誰でもできる仕事」を思い浮かべる人は多いでしょう。専門的な知識や特別な資格などが必要なく、誰でも働くことができるから安いのではという理論です。しかし、保育士は誰でもできる仕事かと言えば、実際そうではありません。保育士として働くには、まず国家資格である保育士資格を取得する必要があります。資格取得するためには、厚生労働大臣の指定する養成学校または養成施設で最低2年間学ぶか、保育士試験に合格するかいずれかの方法があります。保育士試験の合格率は約20%ほどと言われており、決して簡単な内容ではありません。試験合格のためには、子どもの保育に関する専門的な知識・技術が求められます。つまり、そのようなスキルが身についていなければ保育士にはなれないということです。
また、実際に就職してからは子どもの保育の他にもさまざまな業務を担当します。例えば、園内の環境整備や色々な行事の準備、事務仕事なども加わります。クラスの担任になればますます責任は重くなります。自分のクラスの園児をまとめるとともに、保護者とも良好な関係を築いていかなければなりません。このように、子どもを直接保育する以外の仕事も多く、残業や持ち帰り仕事などが発生することもたびたびあります。業務量が多い、勤務時間が長い職業としてもイメージされやすい保育士。誰でもできるような簡単な仕事ではないことがわかります。
保育園がもらっている補助金は保育士に行かない?
保育士は専門的な資格が必要で、仕事の量も多いのになぜ給料が安いのかという大きな理由は、園を運営する仕組みの中にあります。保育施設の収入は基本的に公費と保護者からの保育料で成り立っています。公費は、園児の人数などによって自治体から支給されています。ただし、公費の出どころは税金です。税金を振り分けている以上、あまり高額な金額を支給できないという側面があります。また、保育料は世帯収入などによって決定されるものなので、園に入ってくる合計額は基本的にあまり変わりません。つまり、園に入ってくる収入が大幅にアップすることはまずないということです。
民間保育園の保育士の給料は園の収入から出ているので、園の収入が上がらない状況であれば給料も上がりようがありません。また、公務員保育士の給料は給料表に基づいて支給されますが、給料表の水準は民間の水準と均衡したものなので大きな違いはないでしょう。保育園の収入が多くないため保育士の給料も安い、これが主な理由なのです。そのような保育士の現状を鑑み、国はや自治体は保育士の処遇改善のための補助金を保育園宛てに出しています。しかし、現場の保育士からは、補助金があまり給料に反映されていないという声も多いようです。なぜ補助金が保育士の手元に行き渡らないのでしょうか。
処遇改善加算はどうなっている?
保育士の処遇改善のために支給されている補助金「処遇改善加算」について、もう少し詳しく見てみましょう。処遇改善加算には1と2の2種類があります。1は保育士の給料の一定の割合を加算の手当分として補助するものです。2013年度から始まり、手当の割合は給料の3%分から5年後には11%まで引き上げられました。処遇加算の2は、保育士の役職それぞれの加算手当を補助するというもので、保育士のキャリアアップを促進する狙いがあります。
このように、保育士の給料が安いという状況を改善するため補助金が支払われているのです。しかし、補助金で給料が加算されている実感を得ている保育士はあまり多くなく、現在も給料が安いという不満は残り続けています。それは、補助金が保育士に直接支給されるのではなく、保育園に支給されているという仕組みが大きく影響しています。処遇改善加算の補助金を、園が実際どのように保育士に分配するかは園の裁量に任されているのです。したがって、園が補助金を受け取った後、園独自で保育士への支給額を決めているため、保育士の給料に反映されにくくなっているという状況が考えられます。また、役職についた保育士への処遇改善加算は、園によってもらえる上限人数が決まっています。補助金の支給額が限られるため、それを分配することにより1人あたりの手当額が少なくなっているという状況もあり得るでしょう。
保育園の保育士の給料が安いという話のまとめ
保育士の給料が他の職業も含めた平均的な給与水準に比べて安いこと、安くなってしまう理由、そして保育士の給料の安さを改善するよう国が補助金制度などを実施していることなどがわかりました。しかし、そのような補助金が現場の保育士の給料にしっかり反映されているかと言えば、必ずしもそうではありません。現在よりも給料をアップさせたいと考えるなら、上の役職を目指したり、給料の待遇が良い保育園に転職したりするという方法も考えると良いでしょう。
保育士の給料は安いが今後さらに改善される可能性も
保育士の給料は他の職業と比べて安いのが現状です。しかし、処遇改善制度などにより、従来より給料が上向きの傾向にあることも確かです。制度は現在も継続されており、今後さらに状況が改善される可能性もあるでしょう。保育士は子どもたちを育む大切な仕事。給与をアップさせたい場合は、キャリアアップや転職という方法もあります。自分が納得して働くためには何が必要なのか、考えてみましょう。