保育士の不足はいまや社会問題です。しかし、その賃金の低さがネックとなって、人材不足はなかなか解消されていません。現状を変えるため、政府主導で保育士の人材を確保する制度の導入をすすめています。今回はその制度の中で、保育士の給与の実質的改善に影響を与える、家賃補助・借上社宅制度・住宅手当といった助成制度について解説します。求人選びの参考にしてください。
保育士の家賃補助とは?
保育士の不足を補う助成手段として、家賃補助が用いられることが多くなっています。家賃補助は住居費用を援助する支援制度です。住宅手当や家賃手当などと呼ばれる場合もありますが、制度的に大きな違いはありません。生活費の中でも大きな割合を占めているのが住居費用です。この費用を支援することで、保育士の生活レベルを引き上げられます。保育士が家賃補助制度を利用したい場合には、事業者を通じて制度を使わなければなりません。あくまで、家賃補助は保育士に対する福利厚生の一環として支給されます。保育士個人では申請ができないので注意が必要です。なお、家賃補助の費用は、事業者や国もしくは地方自治体によってまかなわれています。
家賃補助の種類
家賃補助にはいくつかの種類があります。上手に利用するためには、それぞれどのような制度であるかを知っておくことが大切です。「寮や社宅に対する家賃補助」では、勤務先が住む物件を提供します。同条件の他の物件よりも有利な家賃を設定することで、実質的に家賃を補助します。「保育士が借りた物件に対する家賃補助」は、保育士が賃貸契約した住宅の家賃に応じて、家賃補助が支給される支援です。家賃が10万円の物件に対して、30%の家賃補助がでている場合、現金で3万円支給されます。入居時の敷金や礼金は、多くの場合支給されません。
「毎月一定額が支給される家賃補助」では、事業者が規定する範囲内の物件に入居すると、毎月一定額の家賃補助が与えられます。代表的な家賃補助制度には以上の3つの補助以外にも、「自治体の住宅支援制度」と「借上社宅制度」があります。
特に活用したい借上社宅制度
家賃補助制度のなかでも注目すべきは借上社宅制度です。この制度では、「保育士宿舎借り上げ支援事業」として借入れた住居へ、無償もしくは有利な家賃条件で、保育士の入居を認めています。また、この制度を使えば入居の初期費用を抑えることが可能です。そのため、特に活用したい制度であるといえます。
借上社宅制度の仕組みと条件
そもそも、借上社宅制度の借上社宅とは、どのような住宅なのでしょうか。借上社宅とは労働者の住居にあてるために、企業が賃貸契約している物件のことです。保育士の家賃補助として使われる借上社宅制度は、「保育士宿舎借り上げ支援事業」に基づいて、勤務先法人が国や地方自治体の支援を受けて住宅を借り入れます。「保育士宿舎借り上げ支援事業」とは、保育人材の確保・定着・離職防止を目的として、保育士の就業環境を改善するために、保育施設の住居借上費用を補助する制度です。なお、借上社宅制度では入居できる人に条件が付いています。
上限82,000円
借上社宅制度では、保育士のために借り上げた住宅の家賃に対して、全額または一部の補助金を支給します。つまりは、国と地方自治体そして保育施設の3者で、住宅費用の負担を分担する制度です。東京都を例に負担額の内訳を示すと、国と東京都が全体の4分の3、区市町村が8分の1、保育施設が8分の1となります。また、それぞれ補助金の支給上限が決まっています。国と東京都は合わせて6万1500円、市区町村は1万250円、保育施設が1万250円です。合わせて8万2000円が家賃補助額の上限となります。東京都にある多くの地方自治体ではこの額が上限です。
敷金・礼金・更新料は含まれない(法人が支援してくれる所もある)
借上社宅制度による家賃補助に、敷金・礼金・更新料は含まれていません。敷金や礼金はどのようにしたらいいのでしょうか。この制度では保育士が直接に賃貸物件を契約するわけではなく、あくまで契約者は保育施設です。そのため、保育施設が用意した物件に入居する際には、契約時に発生する敷金や礼金を、保育士が負担する必要はなく、同じ理由から契約更新料の負担もありません。ただし、自分で選んだ物件を借上社宅制度として申請してもらう場合には、敷金・礼金・更新料などがかかってくる場合があります。
なお、保育施設を運営する法人が、これらの費用を負担してくれる場合もあります。この他にも、賃貸物件の取得や維持に関わる費用は一般的に法人負担です。その結果、借上社宅制度を利用すれば、入居の際のコストを低くできます。なお、住居の利用に自己負担額が発生する場合には、給料から天引きされるので注意が必要です。
法人契約
借上社宅制度を利用する際には、物件の契約者は保育施設を運営する法人です。しかし、入居を希望する保育士がいない間も、物件を借りておく必要はありません。多くの場合、保育士採用と同時に物件の借り入れをしています。そのため、借上社宅制度であっても、保育士自身が好みの物件を探すことが多いです。
常勤勤務
借上社宅制度は、誰もが利用できるわけではありません。多くの地方自治体では、対象となる保育施設に勤務する、採用から10年以内の常勤保育士であることが制度の利用条件です。また、1日6時間以上働き、かつ月に20日以上勤務している保育士を、常勤の保育士とみなしています。特例措置が設けられている場合には、保育士とみなされる保健師や看護師もこの制度の対象となります。なお、施設長や住居手当の支給を受けている職員は、上記の条件に適合していても、借上社宅制度の利用はできません。
最長で10年
入居できる条件が、借上社宅制度の対象となる保育施設に採用されてから10年です。そのため、この制度の利用は最長で10年が限界です。なお、地方自治体によっては最長期間が5年となっている場合もあります。
同居人がいる場合の条件
恋人や家族など、同居人がいる人でも借上社宅制度を利用することはできるのでしょうか。多くの地方自体では、同居人と生活する場合にも制度を利用できます。ですが、利用上のルールがありシャアハウスの場合のルールや同居人の収入により利用できない場合があるなど事前確認しておいた方がいいケースが多くあります。勤務先が禁止しているケースが多いので注意が必要です。地方自治体が認めていても、勤務先が認めていないのでは、この制度は使えません。もし、同居人がいる場合には、制度を使えるか調べておきましょう。
注意点:制度がいつまでか決まっていないため急な廃止もある
助成制度は必ずしも永続するものではありません。借上社宅制度もまた、継続が確約されていない制度です。例えば、東京都世田谷区では、2021年に借上社宅制度が終了するとみられていました。助成制度の継続や廃止は、国や地方自治体の予算もしくは費用対効果に左右されます。急に制度がなくなっても生活が脅かされないように準備しておくことが大切です。なお、借上社宅制度の存続について、世田谷区は東京都の考えに合わせる旨を決定しました。そのため、2020年12月現在、借上社宅制度は続いています。
注意点:区や市により金額や条件が異なる
東京都を例に、借上社宅制度での支給額の上限が8万2000円であると上述しましたが、この額面は区や市によって違いがあります。東京都内でも千代田区の補助金額は最大13万円です。神奈川県藤沢市では6万1500円です。また、区や市により入居条件も異なります。例えば、東京都世田谷区の入居条件には「2015年2月以前から雇用主の宿舎に居住する者でないこと」という、他の区や市にはない条件がついています。制度を利用する際には、よく確認しなければいけません。
注意点:法人により金額や条件が異なる
区や市の違いだけでなく、保育施設を運営する法人によっても、補助金額の額面や入居の条件は変わります。上述の同居人は、そのよい例です。家族との同居のみを認めている法人もあれば、一切の同居人を認めていない法人もあります。ただし、区や市とは違い、相談によって条件が変わる場合もあるので、自分の生活条件とどうしても合わない場合は、事前に法人とよく相談するようにしましょう。
借上社宅制度を利用する前に確認したいこと
いかに経済的に楽になる制度であっても、自分の生活条件からかけ離れたものであっては、制度を使い続けるのは難しいです。以下では借上社宅制度を利用する前に確認しておきたいポイントを紹介します。
物件は自分で選べるか
借上社宅制度では、基本的に自分で入居物件を選ぶことはできません。物件の契約者が保育士ではなく、保育施設を運営する法人だからです。また、この制度では補助金を保育士に直接支給しません。あくまで、法人が保育士のために用意した物件の費用として支給されます。しかし、必ずしも法人は賃貸物件を維持し続けているわけではありません。採用に応じて借上社宅制度を申請するケースも多いです。その場合には、好みの物件を自分で選べます。そのため、採用が決まる前に物件を自分で選べるかを法人に問い合わせるとよいでしょう。
家賃以外に会社が負担してくれる費用はあるのか
これは借上社宅制度の範疇とはいえないかもしれません。ですが、就職先の会社が家賃以外のお金を負担してくれたら、誰しもが嬉しいのではないでしょうか。例えば、引っ越し費用を会社が負担してくれたなら、新しい生活を始める際の初期投資を大きく減らしてくれます。敷金や礼金、更新料、部屋の火災保険など、費用に関わることはなるべく詳細に確認しておきましょう。
税金が増えるかどうか
借上社宅制度は、普通の住宅手当より高額な場合がほとんどです。例えば先ほどの千代田区の場合最大13万円ですが、家賃12万円の物件に住んで全額補助で賄うと給与と同じとみなされ課税対象となります。家賃12万円の内、自己負担が一定以上あると給与とみなされず課税対象となりません。よく保育士の求人で借上社宅制度利用できるが自己負担1万円となっているのはこのためです。
保育士の家賃補助・借上社宅制度・住宅手当のまとめ
保育士の家賃補助は、人手不足で知られる保育業界で、人材の確保と離職率を下げるための制度として用いられています。なかでも借上社宅制度は保育士にとってメリットの大きな制度です。しかし、補助金額や入居条件が区や市だけでなく勤務先の法人によっても異なります。そのため、借上社宅制度を上手に利用するには内容の確認が重要です。
家賃補助や借上社宅制度が自分の生活プランと合わない場合には
家賃補助や借上社宅制度は保育士の生活改善に大きな影響を与える制度です。しかし、自分の生活プランと制度の利用条件が合わない場合があります。そんなときは、制度の利用を諦めるのではなく、一度法人と相談してみるとよいでしょう。地方自治体が定めている条件の変更はできませんが、法人が定めている条件は変更が可能な場合があるからです。もしかすると、よい返事がかえってくるかもしれません。