保育士は子どもが好きな人にとって憧れの仕事のひとつと言えるでしょう。しかし人手不足が慢性化している保育士業界は労働環境の整備が追いついておらず、いざ働いてみたら理想と現実のギャップに苦しむ人も少なくありません。様々な事情を抱える中で転職に踏み切れない現役保育士も多いでしょう。そこで今回は実際に保育士を辞めた人たちの意見を参考にして、保育士から後悔のない転職を実現するためのポイントを紹介します。
辞める前の気持ちと辞めた後の気持ちの変化
転職には当人のメンタル部分が大きく影響するため、自分の気持ちに整理が付かず不安が大きくなる事があります。実際に転職した人たちがどのような気持ちの変化を経験してきたのかを知る事が出来れば、その不安も抑えられるでしょう。まずは転職の前後でどのような心境の変化があるのか、保育士から転職した方が良い人・転職すると後悔する人の特徴も併せて紹介していきます。
辞める前の気持ち
保育士を辞める前の気持ちは「今の園への不満」と「退職後の不安」という2つの気持ちがせめぎあっている状態です。人によってこの2つの割り合いはまちまちでしょう。どちらも基本的にネガティブな感情ではあるものの、前者は待遇面や保育に対する園の姿勢など自分ひとりでの解決が難しいポイントが多いです。一方後者の場合は自分が辞めた後の同僚の心配や自身の仕事についてなど、転職までの努力次第でどうにか出来る場合が多いと言えます。
辞めた後の気持ち
保育士を辞めた後はひとまず「現状から開放された安心感」が訪れます。落ち着いた心理状態で冷静な判断が可能となる点が大きなメリットと言えるでしょう。しかしその後に「保育士を辞めて良かった」と思えるかどうかは、転職までの事前準備に掛かっていると言っても過言ではありません。例え転職によって自分自身はより良い環境下で働けるようになったとしても、前職の仕事や同僚に心残りがあるようでは晴れやかな気持ちで新しい仕事に臨む事は難しいでしょう。
今考えてみると
「転職したいけれど踏ん切りがつかない」という今の状態だからこそ、改めて冷静になって視野を広げてみる事が大切です。気持ちをフラットにした上で「自分は何故転職したいのか」「退職後の事まで視野に入れて本当に転職すべきなのか」「転職するなら何をすべきなのか」といった点を出来るだけ客観的に判断する事に努めましょう。
辞めた方がいい人
どんな仕事でも健康的な心身が維持出来ない職場環境で働き続ける事にはメリットがありません。現在努めている保育園の労働環境があまりにも過酷で体調やメンタルが不調に陥ってしまっている場合は、なるべく早急に退職手続きを取った方が良いでしょう。転職を考え出してから自分なりに改善を試みたものの、長期間が経過してなお現状が打破出来ていないといったケースも転職が効果的に作用します。また、保育という仕事にやりがいや喜びを見出せなくなってしまった人も転職という選択肢がおすすめです。
辞めたことを後悔しそうな人
とにかく子どもが好きで保育士になったという人の場合は、転職によって子どもと触れ合う機会が失われてしまうため辞めた事を後悔してしまう可能性があります。長年の保育で預かってきた子ども達に愛着が湧いているという人も多いでしょう。退職後に自分の心身が落ち着いてくると、段々子どもと触れ合えないさびしさがこみ上げてくるケースも少なくありません。現実的な目で見ると、次の転職先にあてがない人も保育士を辞めてから後悔する場合が多いです。保育士を辞める前には、自分がやりたい仕事や待遇面の改善が見込める職場に目処を立てましょう。
みんなの辞めた理由
転職希望者の中には「こんな理由で仕事を辞めたいと思っているのは自分だけなのではないだろうか」という不安を抱えている人も少なくありません。実際に保育士を辞めた人はどんな理由で退職・転職に踏み切ったのか、以下の退職理由を参考にして自身の現状と照らし合わせてみましょう。
人間関係
職場の人間関係は様々な職種において退職理由の上位を占めていますが、保育士業界では特に多いと言われています。保育士の業界は女性比率が高く、全体の約96%が女性職員です。女性社会特有の空気感が苦手、同姓同士で仕事上での当たりがキツいといった悩みを抱えている保育士は珍しくありません。特に保育園のように比較的規模の小さい施設では、毎日のように決まったメンバーと顔を合わせて仕事する事になります。一度こじれてしまった人間関係や抱いてしまった苦手意識から、働きづらくなって退職するというケースが多いのです。
給料
保育士は一般的に仕事量に対して給与が低いとされている職種であり、そこに不満を持って退職する人も多いです。とあるリサーチ会社の統計によると保育士の全国平均年収は20代で手取り約16万6000円、30代で約17万円、40代で約19万5000円となっています。この数値は女性の平均収入を下回る結果となっており、保育士は現実問題として給与待遇の面で恵まれている訳ではないのです。また、20代と30代の平均月収を見ても分かる通り、保育士の基礎給与は昇給しにくくなっています。頑張っても生活水準が中々上がらない事に不満を持ち、今より条件の良い仕事に転職する保育士が多いのです。
会社の対応
所属している保育園の運営方針や対応に不信感を抱いて退職するという事例も多数散見されます。例えば忙しくて有給休暇の消化が出来ない、待遇改善の見込みがない、仕事に対する意見を聞き入れてもらえないなどが代表的なものとして挙げられるでしょう。ブラックに近い保育園では園長のワンマン経営となっている場合も多く、過酷な運営方針について行けなくなってしまうのです。また、自分の中にある保育方針と会社の保育方針にギャップがあり、それを埋められないと感じた人も退職する傾向にあります。
辞めて後悔した理由
意を決して保育士を辞めたものの改めて思い返すと後悔が残ってしまった、そんな人たちの意見も転職においては貴重な情報源です。転職して後悔が残ってしまう理由には主に以下のようなものがあります。
勢いで辞めてしまった
今の職場に不満が溜まった状態で働き続けると、ストレスによって冷静な判断が難しくなります。怒りに身を任せて十分な準備をしないまま退職手続きを取ると、辞めてから後悔するハメになってしまうでしょう。例えば転職先を見つける前に辞めた場合、無収入になって生活が圧迫される事になります。勢いに任せて退職したがために業務の引継ぎがしっかりと行えず、他の職員や子どもたちに迷惑をかけて後悔したという事例もあるのです。
給料が安いので給料が高いところに転職したら・・・
今より高収入の仕事を求めて保育士から転職する人は多いですが、焦って転職先を決めると自分に合っていない仕事に従事しなければならないリスクが高くなるので注意が必要です。例えば給与面を重視し過ぎたがために自分の苦手な分野の職種に就いてしまった、転職先の情報をしっかり調べなかったがために企業風土が自分に合わなかった、転職先の仕事が忙し過ぎてプライベートの時間がなくなってしまったなどの失敗談がよく見られます。
前の職場と比較して悪い点ばかりが気になった
自分の職場環境の良し悪しは働いていると客観的に判断しにくいものです。そのため、前職の保育園よりも転職先の悪い点ばかりが気になって転職を後悔したという人も少なくありません。特に若いうちは転職の経験自体が少ない人も多く、転職前の職場を客観的に評価する事が難しいでしょう。転職に踏み切る前には転職先の環境や条件をしっかり調べて現職と比較する事も大切なのです。
辞めて後悔しないための方法
保育士を辞めて後悔しないためには、入念に準備して正しいステップを踏む事が重要です。ここからは保育士が転職するために必要な過程をポイントごとに紹介します。
客観的に自分の状況を考察する
転職するにあたっては、まず自分の状況を客観的な視点で分析する事から始めましょう。「自分が転職したい理由(今の職場への不満)」「その不満点が現状にどのような影響を及ぼしているのか」を明確にして、転職に踏み切るべきか否かを改めて自分に問いかけてみてください。また、ストレスや疲れでネガティブになった気持ちをフラットにするという意味では「自分が保育士を目指した理由」を思い出してみる事が有効です。
退職後の計画を考える
転職の意志が固まったら具体的な退職後の計画を考えます。「職場への退職申請」「転職先探し」「引継ぎ・挨拶回り」など、転職に際してすべき事は少なくありません。それぞれのアクションについてしっかりとスケジュールを立てて余裕を持った行動を心がけましょう。
自分の強みを考える
転職活動を行う際には「自分の強み」を理解しておく事が大切になります。転職活動とは言わば企業に対して自分を売り込む営業のようなものです。自分という商品にどのようなセールスポイントがあるのかをしっかりとアピール出来れば、企業から内定をもらう事は難しくありません。自分の強みを理解するためには今までの自分の経験や経歴を振り返り、培ってきたスキルを客観的に見つけ出す「キャリアの棚卸し」を行うのが有効です。
転職エージェントや友達等に相談する
転職は自分ひとりで進める事も出来ますが、客観的な意見や業界に精通した人からの情報があればより効率的かつ精度の高い転職が可能になります。そのためには転職エージェントや友人、信頼出来る職場の同僚などに相談してみるのがおすすめです。特に転職エージェントは転職先の求人情報を紹介してくれたり、一般的な求人情報では分からない内部事情を提供してくれるので積極的に活用してみましょう。初めての転職でも面接対策や履歴書添削を行ってくれるので安心です。働きながらでも効率的な転職活動を行う事が出来ます。
転職案件を複数検討する
転職先の候補はひとつだけではなく、複数の求人情報を比較して検討するようにしましょう。いくつかの候補を見比べる事で、より一層確実に自分に合った職場を選択出来るようになります。単純に条件面での比較だけではなく、実際に現場を見学したり転職エージェントから情報を仕入れたりして「自分が働きやすい環境」を見つけましょう。
後悔しないためのポイント
転職活動で後悔しないためには、転職をする目的を見失わない事が大切です。例えば人手不足が慢性化した保育園から転職したいのに、求人情報を探しているうちに目移りして給与の高さで転職先を決めても根本的な問題を解決出来る見込みは低いでしょう。収入が上がっても結局忙しさは変わらずプライベートとの両立が出来なければ、また転職を考える事になってしまいます。転職を決意した当初の目的は常に念頭に置いて転職活動を行いましょう。
引き留められた場合でも辞める方法
人手不足が慢性化している保育園では、退職を申請しても引き留められるというケースも珍しくありません。引き留めに強制力はないので無理矢理辞める事は可能ですが出来るだけ円満に退社したいところです。ここで引き留めに対して穏便に対処する方法を確認しておきましょう。
引き留め方いろいろ
ひとくちに引き留めといっても、向こうからのアプローチ方法は様々です。例えば昇給や休日の増加を持ちかけて待遇面での引き留めてくる事もあれば、周りの保育士に負担がかかる事を示唆して情に訴えかけてくる場合もあります。しかし待遇面は転職で改善出来る見込みがあり、同僚保育士への負担も事前の相談や引継ぎによって十分軽減可能です。基本的に保育園側が引き留めの材料にしてくる内容は、自分でどうにか出来る事が多いので留意しておきましょう。
自分の心・体調が崩れる前に辞める
人手不足を理由に引き留めてくる場合、保育園側から「せめて○月まで働いてくれ」と引き留められる事があります。ケースバイケースですが、この方法でずるずると勤務期間が延びてしまうというケースもあるので注意が必要です。特に過酷な勤務などが理由で心身が弱っているのであれば、取り返しがつかなくなる前にきっちりと退職時期を申請しましょう。
年度末までやる必要性はあるのか?
勤務期間の引き延ばしは「年度末まで」という内容で交渉してくる場合が特に多いでしょう。保育士という仕事がクラス単位で子どもを受け持つため、子どもや保護者の混乱を避けるためです。これに関しては子ども達への影響を踏まえた上で、出来れば年度末まで勤務するのが理想と言えるでしょう。もちろん自分の心身の状態が限界に達しているのであれば、無理に年度末まで働く必要はありません。
退職願の書き方、出すタイミング
退職届けの書き方は一般的なものに沿っておけば問題ありません。封筒表面の中央に「退職届」と記し、裏面左下にやや小さめの字で自分の氏名を書いておきましょう。退職届けの本文には「退職理由」「氏名」「押印」「退職予定日」を忘れずに書いてください。なお、退職理由は具体的なものを記すのではなく「一身上の都合により」などとするのがマナーです。退職届けを出すタイミングは退職予定日の一ヶ月前までが一般的ですが、保育士という仕事はイベントも多いので余裕を持って退職予定日の三ヶ月前に提出するのが良いでしょう。年度末に間に合わせるには逆算して12月には提出しておきたいところです。
最終手段は退職代行
退職の意志を伝えても頑なに引き留めてくるようであれば、最終手段として退職代行業者を利用する事も視野に入れましょう。退職代行サービスを利用すれば直接保育園の人事担当者と顔を合わせずに退職手続きを進める事が可能です。引き留めには法的な拘束力がないので、退職における事実上の強行突破と言えるでしょう。ただし退職代行を利用する際には相場として3~5万円程度の費用が必要になる事と、すべての代行業者が優良サービスではないという事には注意が必要です。
失敗しない保育士キャリアのまとめ
保育士としてのキャリアに幕を引くかどうかは、まず退職したい理由を明確にして真摯に自分と向き合ってみてから判断しましょう。その上で退職という選択肢を取れるのであれば、その結論に自信を持って転職活動を行ってください。保育士業界では園からの引き留めも珍しくありませんが、無理に付き合う必要はない事も覚えておきましょう。
保育士からの転職は「早めの準備」と「正しいステップ」が重要
転職活動は「事前の準備」と「明確な目的意識」が重要な鍵です。特に保育士という職種は仕事量やイベントの多さ、子どもや保護者への影響を考えると早めからアクションを起こす事が求められます。退職の意志を職場に伝えたら、目的を見失わずに現状を改善出来る転職先を見つけるように心がけましょう。また、理想の転職タイミングは年度末ですがくれぐれも自分の心身に無理がかからないように気をつけてください。